画面の上では利益が膨らんでいるのに、引き出そうとすると手数料や税金、保証金を求められる。SNS型投資詐欺では、出金の段階になってから支払いを重ねてしまう被害が繰り返されています。警察庁によると、令和7年(2025年)のSNS型投資詐欺の被害額は1,288.0億円に上りました。
本記事で取り上げる「borsaistobb.com」は、トルコの証券取引所「Borsa İstanbul」と同じ名前とロゴを掲げた取引サイトです。出金を申し込んだ相談者は、利益の5%の手数料や13%の「個人所得税」を次々に求められ、駅前での現金の手渡しまで指示されました。
調べると、プライバシー規約は他社の文書の社名を置き換えたもので、運営側の設定には出金の可否を切り替える項目が並んでいました。登録記録やサイトのデータ、当局と取引所自身の資料を突き合わせ、出金の条件として支払いを迫られたときの見極め方を弁護士が解説します。
Borsa Istanbulを装う偽サイトに関するトラブルの概要

今回の相談は、SNSで知り合った人物から投資を勧められ、「Borsa Istanbul」を名乗る取引サイト(borsaistobb.com)で取引を始めたことから始まりました。画面には数千万円の利益が表示されましたが、出金を申し込んだ段階で、口座の凍結や審査を理由に支払いを求められるようになります。
支払いは銀行振込だけでなく、暗号資産の送付やクレジットカードでの決済、さらには指定された場所での現金の手渡しにまで広がりました。相談者は複数の消費者金融から借り入れて支払いを続けましたが、利益の出金は一度も実現していません。
出金の手続きを理由に支払いを重ねさせるSNS型投資詐欺
SNS型投資詐欺は、SNSで接触した相手が投資アプリやサイトへ誘い、架空の利益を見せたうえで金銭をだまし取る手口です。本件は、入金を重ねさせるよりも、利益を引き出そうとした段階で出金の条件として支払いを求める手口です。
警察庁によると、令和7年(2025年)のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件、被害額は1,288.0億円でした。前年と比べると、件数は48.5%、被害額は47.9%増えています。利益が出ているのに引き出せない状態は、被害が進んでいる合図と受け止めてください。
手数料や税金や保証金と名目を変えて期限つきで支払いを迫る
出金を申し込んだ相談者に求められた支払いは、一つではありませんでした。利益の5%に当たる出金手数料、利益の13%に当たる「個人所得税」、さらに保証金と、名目を替えながら請求が続きます。期限までに払わなければ、アカウントの凍結や延滞金、信用情報への悪影響があると警告されました。
警察庁の特殊詐欺対策ページは、「保証金が必要です」「この手続きには税金として●%の額がかかります」と言われ、指定された口座へ何度も振り込んでしまった事例を紹介しています。出金のために保証金や税金を求めるのは、この手口の典型です。
▼保証金と税金を名目にした警察庁の被害事例

出典:警察庁
金融庁の相談室も、口座凍結の解除を名目にした手数料や保証金、税金の請求を取り上げ、その額は「被害者が認識させられている財産額の2~3割程度であることが多い」としています。本件で求められた手数料と税金だけでも、利益の18%に達していました。
これらの注意喚起が本記事のトラブルと同一の案件であることまでは確認できませんが、請求に応じても出金につながらないおそれは高いと考えられます。支払いを求められた時点で、振り込む前に専門家へ相談してください。
振込と暗号資産に加えて駅前での現金の手渡しまで求められる
支払いの手段は、個人名義や法人名義の口座への銀行振込、暗号資産(イーサリアム)の送付、クレジットカードでの決済と多岐にわたりました。さらに、駅前など指定された場所で、スタッフを名乗る人物に現金を直接手渡すよう指示されています。
現金の手渡しは、SNS型投資詐欺では少ない手段です。警視庁の集計では、令和7年に都内で起きたSNS型投資詐欺の被害額のうち、現金手交は5.8%でした。振込や暗号資産と違って記録が残りにくく、受け取った人物の素性をたどることも難しくなります。
実在のBorsa İstanbulは個人が直接売買できる取引所ではない
Borsa İstanbul(ボルサ・イスタンブール)は、トルコで株式や債券、デリバティブなどを扱う証券取引所です。本記事では、実在する取引所を「Borsa İstanbul」、相談者が使ったサイトを、そのアドレスから「borsaistobb.com」と呼びます。
Borsa İstanbulが公開している株式売買の手引き(Pay Alım Satım Kılavuzu)の3ページ目には、投資家が自分で売買できるかという問いへの答えとして次の一文があります。
Yatırımcılar, Borsa İstanbul’da bizzat alım-satım yapamazlar. (投資家は、Borsa İstanbulで直接売買することはできません。)
▼投資家の直接売買を否定するBorsa İstanbulの手引き

出典:Borsa İstanbul
同じ手引きによると、売買を担えるのは、トルコの資本市場委員会(SPK)の認可と取引所の会員資格を持つ証券会社だけです。個人が取引所の名前を掲げたサイトで直接取引する仕組みは、そもそも用意されていません。
一方で、borsaistobb.comのロゴは、Borsa İstanbulの公式ロゴと同じ図柄でした。ただし、ロゴの画像は誰でも写し取れます。正規のBorsa İstanbulによって運営されていることを示す情報は確認できませんでした。
▼公式ロゴ(左)と同じ図柄を使うサイトのロゴ(右)

出典:Borsa İstanbul/borsaistobb.com
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)
・Borsa İstanbul-Pay Alım Satım Kılavuzu(https://www.borsaistanbul.com/files/Pay_alim_satim_kilavuzu.pdf)
・警察庁-令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)
・金融庁-投資詐欺等に関する利用者からの相談事例等と相談室からのアドバイス等
・警視庁-令和7年における「特殊詐欺」及び「SNS型投資・ロマンス詐欺」の状況について(暫定値)
Borsa Istanbulの偽サイトへ誘導され被害につながるまでの経緯

SNSで知り合った人物の勧めで始めた投資は、取引画面の上では順調に見えました。ところが利益を引き出そうとした途端に請求が続き、支払いの手段は銀行振込から現金の手渡しにまで広がっています。
資金は手持ちだけでは足りず、消費者金融からの借り入れでも工面されました。最初の勧誘から出金の申し込み、弁護士への相談に至るまで相談者がたどった道筋を4つの段階に分けて整理します。
SNSで知り合った人物から投資を持ちかけられる
相談者に投資を勧めたのは、SNS上で知り合った人物です。その人物が取引の場として示したのが、トルコの証券取引所と同じ「Borsa Istanbul」の名前を掲げたborsaistobb.comでした。
▼Borsa İstanbulと同じ図柄のロゴを掲げるログイン画面

出典:borsaistobb.com
borsaistobb.comにアクセスすると、利用者名とパスワードの入力欄が並ぶ画面になります。中央には実在の取引所と同じ図柄のロゴが置かれ、表示を日本語に切り替えることもできます。画面を見ただけでは、実在の取引所のサービスではない可能性に気づくのは難しいでしょう。
取引画面に多額の利益が表示される
相談者は、このサイトで暗号資産などの取引を始めました。プログラムを調べたところ、サイトには米国株や暗号資産、先物、外国為替の取引に加え、ごく短い時間で結果が決まる取引の画面も用意されています。
取引を重ねるうちに、画面上の利益は数千万円に達しました。ただし、ここに表示されるのは運営側のサーバーが返す数字にすぎません。運営側が残高を増減する機能を前提にした設定がプログラムに残っていたことは、後の章で紹介します。
出金を申し込むと凍結や審査を理由に支払いを求められる
利益を引き出そうと出金を申し込むと、相談者は口座が凍結された、あるいは審査中だと告げられました。出金を進める条件として示されたのが、利益の額に応じた手数料や税金、保証金の支払いです。保証金を求める口実の例として、国際機関の規定を理由に保証金を要求する出金トラブルも確認してください。
請求には期限が付けられ、間に合わなければアカウントの凍結や延滞金が生じ、信用情報にも悪影響が出ると警告されました。支払っても出金は実現せず、そのたびに別の名目の請求が示されています。
消費者金融から借り入れて支払いを続けた末に弁護士へ相談する
相談者は求められるまま、個人名義や法人名義の口座への振込とイーサリアムの送付を重ねました。さらに、駅前など指定された場所でスタッフを名乗る人物に現金を手渡したこともあります。
支払いの資金は手元の預金ではまかなえず、相談者は複数の消費者金融から借り入れています。それでも出金はできないまま、友人の勧めを受けて弁護士などの専門家へ相談することになりました。
国民生活センターは、副業や投資を名目に借金をさせる業者について、2026年5月20日に注意を呼びかけています。その中で、借り入れた後の責任について次のように説明しています。
副業や投資を勧誘する業者から「すぐに返済できる」と言われて借り入れをした場合であっても、その借り入れに対する返済義務は借り入れをした消費者が負います。
▼借金させる業者への国民生活センターの注意喚起

出典:国民生活センター
この注意喚起が本記事のトラブルと同一の案件であることまでは確認できませんが、消費者金融への返済は、サイトからの出金がどうなっても相談者自身に残ります。支払いのために借り入れを考えた時点で手を止め、弁護士など専門家に相談してください。
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)
・国民生活センター-副業サポートや投資の名目で借金させる業者に注意!-複数の貸金業者から次々と借り入れさせる手口が目立ちます-
Borsa Istanbulを装う偽サイトの関連サイトの情報を調査した結果

調べたのは、borsaistobb.comのドメインがいつ登録されたかという記録と、暗号化通信の証明書がいつ、どの名前に発行されたかという記録です。あわせて、サイトのプログラムに書かれた接続先を洗い出し、「Borsa Istanbul」の名前を金融庁の公表資料と照らし合わせています。
その結果、borsaistobb.comと結びつくドメインがほかに7つ見つかりました。データの受け渡し、アプリの配布、管理画面、チャットの窓口と、役割ごとに別々のアドレスが使われています。登録日の順に並べると次のとおりです。
| ドメイン | 登録日時(世界標準時) | 登録機関 | 役割 |
|---|---|---|---|
| dtfydqqq.vip | 2026年3月31日 18:14 | Gname.com(シンガポール) | 運営側の管理画面 |
| yynscknq.com | 2026年4月28日 12:16:12 | NameSilo(米国) | アプリの配布 |
| ewibxrak.com | 2026年4月28日 12:16:18 | NameSilo(米国) | データの受け渡し(接続先2) |
| borsaistxgd.com | 2026年4月28日 12:16:35 | NameSilo(米国) | サイトの設定に書かれたPC向けのアドレス |
| borsaistobb.com | 2026年4月28日 12:16:37 | NameSilo(米国) | 相談者が案内された取引サイト |
| dirfvxfs.com | 2026年4月28日 12:18:37 | Gname.com(シンガポール) | データの受け渡し(接続先1) |
| dot02wo.cfd | 2026年5月11日 | Dynadot(米国) | 以前のチャットの窓口(現在は停止) |
| melqario.sbs | 2026年5月17日 | Dynadot(米国) | 現在のチャットの窓口 |
取引画面を含む5つのドメインが約2分半のあいだに登録された
RDAPという公開の仕組みを使うと、ドメインの登録日時や取り次いだ事業者を誰でも照会できます。borsaistobb.comの登録は2026年4月28日12時16分37秒(世界標準時)で、記録にサイトの持ち主にあたる人や会社の名前はありません。
同じ日の記録を並べると、アプリの配布やデータの受け渡しに使われる4つのドメインが、12時16分12秒から12時18分37秒までの約2分半のあいだに続けて登録されています。サイトを動かすのに必要なアドレスを一度にまとめて取得したとみられます。
▼約2分半のうちに続く5つのドメインの登録日時

出典:Verisign(RDAP)
ログイン画面の「接続を切り替え」を押すと、「ライン1」「ライン2」の2つが表示されます。プログラムを調べたところ、この2つがdirfvxfs.comとewibxrak.comでした。画面に表示される残高や取引のデータは、取引画面とは別のアドレスから届いています。
管理画面のドメインだけは4週間前の3月31日に取られている
5つのドメインより先に用意されていたのが、dtfydqqq.vipです。登録は2026年3月31日で、このドメインの下には運営側が使う管理画面が置かれており、画面に何が表示されるかは次の章で紹介します。
▼2026年3月31日に登録された管理画面のドメイン

出典:.vip(RDAP)
次の項で紹介するチャットの窓口のデータには、案内用の画像として「2026/03/31」の日付が入ったファイルが指定されています。取引画面のアドレスが登録される4週間前から、運営側の準備が進んでいたとみられます。
チャットの窓口は停止されると6日後に別のドメインへ移される
相談の資料にあったolh.dot02wo.cfdは、サイト内のチャットの窓口とみられるアドレスです。dot02wo.cfdは2026年5月11日に登録され、その約30分後、3文字の意味のない名前を付けた50のサブドメインに証明書がほぼ同時に発行されています。
このドメインは現在、登録機関によって止められています。登録記録の状態欄には、アドレスを引けなくする「client hold」が付いており、記録の最終更新日は2026年9月12日でした。この日に状態が変わったとみられます。
▼登録機関に止められたチャット用ドメインの状態

出典:CentralNic(RDAP)
現在、borsaistobb.comがチャットの窓口として示しているのはnys.melqario.sbsです。サイトのデータには、窓口の日本語の表示名「24時間オンライン」とともにこのアドレスが書かれています。
▼「24時間オンライン」と現在のチャットの接続先

出典:borsaistobb.com(dirfvxfs.com)
melqario.sbsでは、dot02wo.cfdの状態が変わった6日後の9月18日に、3文字の名前のサブドメインへ証明書が次々に発行されました。窓口が止められても、同じ作りの別のアドレスへすぐに移せる体制が整っているとみられます。
▼9月18日に証明書が並んで発行されたチャット用ドメイン

出典:crt.sh
金融庁の登録業者にも無登録業者一覧にもBorsa Istanbulの名前はない
金融庁の金融事業者一括検索で「Borsa Istanbul」を調べると、「該当するデータはありませんでした。」と表示されます。日本の個人に金融商品の取引を案内するには、原則として金融庁への登録が必要です。
▼「Borsa Istanbul」が該当しない金融事業者一括検索

出典:金融庁
無登録で勧誘を行った業者をまとめた金融庁の一覧にも、Borsa IstanbulやBorsa İstanbulの名前はありません。とはいえ、この一覧に並ぶのは、金融庁が警告書を送った相手に限られます。名前がないのは警告に至っていないというだけで、取引してよい相手だという意味ではありません。
▼「Borsa」の検索が0件となる無登録業者の一覧

出典:金融庁
日本の登録業者の中に、Borsa İstanbulの名前で個人の取引を受け付ける窓口は見当たりません。取引所の名前を掲げて日本語で投資を勧める相手がいたら、まずこの検索で名前を確かめてください。
調査では、ほかに次の点も分かりました。
- Googleセーフブラウジングでは、dot02wo.cfdを除く関連の7つのドメインがいずれも「安全ではないコンテンツは見つかりませんでした」と表示される(dot02wo.cfdは判定のデータなし。2026年9月28日時点)
- Internet Archiveには、borsaistobb.comの過去の画面が1件も保存されていない
- 取引画面・データの受け渡し・アプリの配布・管理画面のアドレスは、いずれもAmazonの配信網(CloudFront)を経由しており、実際のサーバーの場所は外から分からない
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)
・Verisign RDAP(https://rdap.verisign.com/com/v1/domain/borsaistobb.com)
・Verisign RDAP(https://rdap.verisign.com/com/v1/domain/dirfvxfs.com)
・.vip RDAP(https://rdap.nic.vip/domain/dtfydqqq.vip)
・CentralNic RDAP(https://rdap.centralnic.com/cfd/domain/dot02wo.cfd)
・crt.sh(https://crt.sh/?q=melqario.sbs)
・金融庁-無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について(HTML版)
・Google-透明性レポート(セーフブラウジングのサイト ステータス)
Borsa Istanbulを装う偽サイトに関する不審点

borsaistobb.comの画面とデータを調べると、実在の取引所のサービスとは考えにくい点が6つ見つかりました。日本語と中国語だけの公式通知、他社の文書を置き換えたプライバシー規約、運営者の名前がない規約、出金と結びついた信用スコア、運営側の設定、中国語の管理画面です。
どれも、サイトの画面かデータを開けば誰でも確かめられるものです。並べてみると、サイトが名乗る「Borsa Istanbul」とは別の誰かが、日本の利用者に向けて組み立てたサイトであることがうかがえます。
日本語と中国語のお知らせだけがBorsa Istanbulの公式通知を名乗る
ログイン後のホーム画面などに表示されるお知らせには、「【Borsa Istanbul 公式通知|取引所運営およびコンプライアンスに関する説明】」という題が付いています。本文は、規制の対象となる金融機関として各国の規制を守り、顧客の資金は分別して管理しているという内容です。
ところが、同じお知らせの言語ごとの本文を並べると、この説明があるのは日本語と中国語だけでした。トルコ語の本文は「19 dilde, sözleşme ticareti…」(19の言語で契約取引などを提供)という定型文で、Borsa Istanbulの名前すら出てきません。
▼日本語だけに長い説明があるお知らせのデータ

出典:borsaistobb.com(dirfvxfs.com)
トルコの取引所を名乗りながら、トルコ語で読む利用者には何も説明していないことになります。お知らせの説明は、日本語と中国語の読み手に向けて書かれたものとみられます。
プライバシー規約は別の暗号資産事業者の文書の社名を置き換えたもの
borsaistobb.comの「プライバシー規約」は、ログインしなくても開けます。見出しは日本語ですが、本文は英語で、「This Exchanges Privacy Policy…」という一文から始まります。文書の主語はBorsa Istanbulではなく、「Exchanges」という名前です。
▼「Exchanges」の名前で始まるプライバシー規約

出典:borsaistobb.com
この一文は、暗号資産の貸付などを手がけるNexo社のプライバシーポリシーの書き出しと、社名を除いて一致します。Nexoの文書にある「Nexo」を「Exchanges」に置き換えた形で、本文には「Exchanges」が77回出てくる一方、Borsa Istanbulの名前は一度も出てきません。
▼書き出しが一致するNexo社のプライバシーポリシー

出典:Nexo
Nexo社に問題があるわけではなく、同社の公開文書が無断で使われたとみられます。個人情報を誰がどう扱うのかという大事な約束が、他社の文書の名前を差し替えただけのものになっています。
約1万字のユーザー規約に運営会社の名前も所在地も準拠法もない
サイトのデータには、日本語のユーザー規約も収められています。約1万字の文書で、「当社」という言葉は42回出てきますが、その「当社」がどこの誰なのかは一度も書かれていません。所在地も、どの国の法律に従うのかも見当たりませんでした。
▼最終解釈権をサイトに帰属させるユーザー規約

出典:borsaistobb.com(dirfvxfs.com)
代わりに置かれているのが、「本規約の最終解釈権は本ウェブサイトに帰属します」という一文です。争いになったとき、どこに訴えればよいのかが分からないまま、規約の意味はサイトの側が決めるという形になっています。
出金の条件として信用スコアの回復を求める文言が組み込まれている
相談者は、期限までに支払わなければ信用情報に悪影響が出ると警告されていました。サイトのデータには、これと重なる「信誉分提示」(信用スコアの案内)という文書があり、日本語で次のように書かれています。
引き出しを進めるには、クレジット スコアを復元する必要があります。復元しないと、資金へのアクセスに遅延や問題が発生する可能性があります。
▼信用スコアの回復を出金の条件にする文書

出典:borsaistobb.com(dirfvxfs.com)
画面の文言には「出金には {1} のクレジット スコアが必要です」もあり、{1}に点数が入る作りです。プログラムを調べたところ、出金画面にも同じ趣旨の警告文を表示する部品が組み込まれていました。
▼出金に必要な点数を示す画面の文言

出典:borsaistobb.com(dirfvxfs.com)
ここでいう「信用スコア」は、サイトの中だけで使われる点数です。日本の信用情報は、指定信用情報機関のCICによれば、厳しい加盟審査を経た会員が登録するものとされています。海外の取引所を名乗るサイトの点数が、日本の信用情報を左右する根拠は見当たりません。
▼信用情報の登録を加盟会員に限るCICの説明

出典:CIC
出金の可否や残高の増減を運営が切り替える設定が誰でも読める
サイトのデータには、運営側の設定の一覧も含まれています。129項目の名前はすべて中国語で、ログインしなくても読めます。その中には「用户是否可以提现」(利用者が出金できるかどうか)という項目がありました。
▼出金の可否と残高の上げ下げに関わる設定の項目

出典:borsaistobb.com(dirfvxfs.com)
ほかにも「贷款未结清前是否禁止提现」(ローンの完済前は出金を禁じるか)や、残高の上げ下げを指すとみられる「上分下分」、模擬ユーザーの入出金を自動で承認するかといった項目が並びます。出金できるかどうかは、利用者の取引ではなく運営側の設定で決められる作りとみられます。
Cumberlandと題された中国語の管理画面に誰でも到達できる
dtfydqqq.vipの管理画面は、アドレスを知っていれば誰でも開けます。ブラウザのタブに表示される名前は、Borsa Istanbulではなく「Cumberland」でした。画面の見出しは「后台管理系统」(バックエンド管理システム)で、入力欄の説明もすべて中国語です。
▼タブ名がCumberlandの中国語の管理画面

出典:borsaistobb.com(dtfydqqq.vip)
画面を開いて確かめたのみで、入力は一切していません。取引画面のソースにも「注册失败」(登録失敗)という中国語の注記が残っており、日本語の画面の裏側は中国語で作られていることがうかがえます。
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)
・borsaistobb.com プライバシー規約(https://www.borsaistobb.com/#/pages/user/privacy)
・dirfvxfs.com お知らせのデータ(https://www.dirfvxfs.com/api/trumpetInfo/list)
・dirfvxfs.com 設定の一覧(https://www.dirfvxfs.com/api/switchSet/list)
・dtfydqqq.vip 管理画面(https://kmadmin.dtfydqqq.vip/)
・Nexo Privacy Policy(https://nexo.com/terms?id=privacy-policy)
Borsa Istanbulを装う偽サイトが悪用されやすい理由

borsaistobb.comの手口は、実在の取引所の名前が持つ信用と、利用者から見えにくい仕組みを組み合わせています。取引所と個人の関係が知られていないこと、名前とロゴを差し替えるだけで使い回せる基盤、審査を通らないアプリの配り方、そして画面に残らない請求の4点です。
取引所の名前は知られていても個人との関わり方は知られていない
日本で株を買うときも、東京証券取引所に直接口座を開くのではなく、証券会社を通して注文します。Borsa İstanbulも同じで、前の章で見たとおり、個人が取引所と直接売買する仕組みはありません。
ところが海外の取引所の名前は知っていても、その取引所と個人がどう関わるのかまで知っている人は多くありません。世界的な取引所で直接取引できると持ちかけられれば、名前の大きさがそのまま信用の材料になってしまいます。
サイト名とロゴの設定を替えるだけで別の取引所を名乗れる
borsaistobb.comのデータでは、お知らせやローン商品、最初のバナーの記録が2024年に作られています。一方、ロゴの画像はドメインが登録された2026年4月28日の日付で保存されていました。以前から使われている仕組みに、Borsa Istanbulの名前とロゴを後から載せたとみられます。
管理画面の名前は「Cumberland」、プライバシー規約の名前は「Exchanges」と、1つのサイトの中に別々の名前が混ざっているのもそのためと考えられます。表示できる言語も20用意されており、名前を替えれば別の国の別の取引所として使い回せる作りです。
App Storeを通らないショートカットをアプリとして配れる
borsaistobb.comの設定には、スマートフォン向けの「アプリ」の配布先が書かれています。配布ファイルを調べたところ、iPhone向けは、ホーム画面にサイトへのショートカットを置く「構成プロファイル」でした。Android向けは、アプリのファイルを直接配る形です。
構成プロファイルには、「右上の『インストール』を押すと『Borsa Istanbul』がiPhoneに入る」という趣旨の英語の案内が書かれていました。ホーム画面にはアプリと同じようにアイコンが並びますが、App StoreやGoogle Playの審査を経ずに配られています。
所得税の請求は画面ではなく担当者とのやり取りで出てくる
サイトのプログラムと画面の文言を調べても、「所得税」という言葉は見当たりませんでした。税に関わる文言は、株式の売却で差し引かれる「印紙税」だけです。相談者が求められた利益の13%の「個人所得税」は、画面ではなくやり取りの中で示されたとみられます。
サイト自身の規約も、1.2.6で「支払うべき税金」は「お客様が単独で判断し、負担するもの」と定めています。サイトが利用者から税金を取り立てる根拠は、規約の中にも見当たりません。
国税庁は、国税の納付のために金融機関の口座を指定して振込みを求めることはないと説明しています。国税庁をかたる詐欺に向けた注意喚起ですが、税金を個人や法人の口座へ振り込ませる時点で正規の納付とは言えません。
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)
Borsa Istanbulを装う偽サイトの不審点を見抜く方法

実在の取引所の名前が使われていても、確かめる手がかりはいくつもあります。ここでは、名前、アドレス、文書、出金、アプリの順に、お金を送る前に自分で確かめられることを6つ挙げます。
- 取引所の名前を掲げるサービスには、どの証券会社を通して売買するのかを尋ねる
- Borsa İstanbulで売買できるのは、トルコの当局の認可と取引所の会員資格を持つ証券会社だけです。取引所と直接取引できるという説明が出てきたら、その時点で話が合いません。
- 金融庁の金融事業者一括検索で、サイトが名乗る名前を引く
- 「Borsa Istanbul」「Borsa İstanbul」のように、綴りを変えて何度か引いてみてください。本件では「Borsa Istanbul」で検索しても、該当する業者はありませんでした。
- ログイン画面の「接続を切り替え」を開き、別のアドレスが並んでいないかを見る
- borsaistobb.comでは、ここに並ぶ「ライン1」「ライン2」が別のドメインにつながっていました。取引画面と同じ日に登録されたアドレスが複数ある場合、一式をまとめて用意したサイトの可能性があります。
- プライバシー規約や利用規約の最初の一文を、そのまま検索にかける
- 別の会社の同じ文書が見つかり、社名だけが違っていれば、他社の文書を流用したものとみられます。あわせて、運営会社の名前や所在地、準拠法が書かれているかも確かめてください。
- 出金の条件として、税金や保証金、信用スコアの回復を持ち出されたら支払いを止める
- 利益にかかる税金は、利用者が自分で申告して納めるものです。取引サイトに税金を払わなければ出金できないという手続きは考えにくいでしょう。
- スマートフォンに、構成プロファイルやアプリのファイルを入れるよう言われたら応じない
- iPhoneでは「設定」の「一般」にある「VPNとデバイス管理」で、入っている構成プロファイルを確かめられます。見覚えのないものがあれば、削除する前に画面を記録しておきましょう。
期限までに払えば出金できると言われている最中でも、その期限に合わせる必要はありません。支払いのための借り入れを勧められているならなおさらです。期限や延滞金を理由に急がされるほど、立ち止まる理由があると考えてください。
支払いを終えた後でも、残せる記録はあります。チャットのやり取りや送金の控え、取引画面の残高を画面ごと保存してください。本件のサイトはチャットの窓口をすでに一度移しており、いつ消えてもおかしくありません。保存した画面は、弁護士など専門家に相談するときの大切な手がかりです。
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)
・Borsa İstanbul-Pay Alım Satım Kılavuzu(https://www.borsaistanbul.com/files/Pay_alim_satim_kilavuzu.pdf)
Borsa Istanbulを装う偽サイトに関する口コミや被害事例

口コミを確かめるため、X(旧Twitter)とYahoo!知恵袋、国内の掲示板で「borsaistobb」や「Borsa Istanbul」を検索しました。本件のサイトに触れた書き込みは見つからず、代わりに目についたのは被害金を取り戻せるとうたう宣伝の記事でした。
X(旧Twitter)ではborsaistobb.comに触れた投稿が見つからない
Xで「borsaistobb」や「Borsa Istanbul 詐欺」などを検索しても、本件のサイトに触れた日本語の投稿はありませんでした。出てくるのは、実在のBorsa İstanbulの公式アカウントによるトルコ語の投稿や、相場の話題です。
公式アカウントは2023年9月18日、「Sosyal medyada yapılan paylaşımlara karşı #DikkatliOlun」(SNSでの投稿に気をつけて)と呼びかけました。トルコ国内に向けた投稿で、borsaistobb.comの件を指したものではありません。
Yahoo!知恵袋や5ちゃんねるにもborsaistobbの名前は出てこない
Yahoo!知恵袋で「borsaistobb」「Borsa Istanbul」を検索しても、該当する質問はありませんでした。「ボルサ・イスタンブール」で見つかるのは、トルコ旅行に関する2012年の質問だけです。
5ちゃんねるのスレッド検索や爆サイでも、本件のサイトを話題にした書き込みは見当たりません。アドレスの「borsaistobb」は意味を持たない文字の並びで、被害に遭った人が検索の手がかりにしにくい名前です。
検索で目立つのは返金をうたう業者の宣伝記事
「Borsa Istanbul 詐欺」のように調べると、上位には被害の体験談を載せたブログの記事が並びます。本文を確認できた記事は、いずれも最終的にLINEの個人アカウントに連絡すれば被害金を取り戻せると読者を誘導するものでした。
記事にある被害額や人物の肩書きは、報道や警察の発表では確かめられませんでした。本文には簡体字も混じっており、日本の弁護士や消費生活センターが書いたものとは考えにくい内容です。
消費者庁によると、投資で被害に遭った人が「国の救済制度により返金を受けられる」「返金手続を代行する」などと持ちかけられ、お金を求められる相談が寄せられています。そのうえで、次のように注意を促しています。
見知らぬ業者などから、被害回復のためといって金銭を要求されたり、新たな投資を勧められたりした場合は、二次被害のおそれがあります。
この注意喚起が本記事のトラブルと同一の案件であることまでは確認できませんが、取り戻すための費用を先に求められたら、それも同じ手口の続きかもしれません。相談先には弁護士や消費生活センターなど、身元のはっきりした窓口を選んでください。
【参考】
・Borsa İstanbul(X)(https://x.com/borsaistanbul/status/1703726361179722067)
Borsa Istanbulを装う偽サイトに関する口コミが少ない理由

「Borsa Istanbul」という名前そのものが、口コミを埋もれさせる原因になっています。この名前で検索すると、トルコの証券取引所の公式サイトや相場のニュースが結果の大半を占め、日本の被害を伝える書き込みがあっても上位には出てきません。
アドレスが分散していることも一因です。取引画面、データの受け渡し、アプリの配布、チャットと役割ごとにドメインが分かれ、どれも意味を持たない文字の並びです。チャットの窓口は止められると別のアドレスへ移るため、被害に遭った人どうしが同じ名前で情報を交わすことも難しくなります。
お金のやり取りが画面の外で進む点も見逃せません。税金の請求はやり取りの中で示され、支払いは口座への振込や暗号資産の送付、対面での現金の受け渡しに分かれていました。手口の全体像を知っているのは、勧誘された本人と運営側だけという状況になりやすいのです。
書き込みがないことは、被害がないことの証明にはなりません。支払いを求められている最中でも、すでに支払った後でも、チャットや送金の記録を残したうえで、弁護士など専門家に早めに相談してください。
【参考】
・borsaistobb.com(https://www.borsaistobb.com/)

