SNSで知り合った相手に暗号資産の取引を勧められ、言われたとおりに送金を重ねてしまう。こうした相談が続いています。令和8年上半期のSNS型投資詐欺は認知件数5,893件で、前年の同じ時期から3,020件増えました。
本記事で取り上げる「dydxt.net」は、TikTokで知り合った外国人女性を名乗る相手から案内された取引サイトです。
国内の暗号資産交換業者で購入したイーサリアムを指定の宛先へ送るよう求められ、途中からはカスタマーサポートを名乗る相手の指示で、個人名義の銀行口座への振込も重ねる事態に至っています。
調べていくと、このサイトには画面に表示される名称がありませんでした。表示言語を切り替えると、契約の相手方として出てくる会社名が入れ替わり、サイト自身が掲示している米国の登記書類に記された法人名とも一致しません。
この記事では、ドメインの登録記録や証明書の履歴、サイトが掲示する公的書類を調べた結果と、日本での登録の有無、資金を預ける前に確かめられる手順を弁護士の視点から詳しく解説します。
dydxt.netに関するトラブルの概要

dydxt.netをめぐるトラブルでは、動画共有アプリのTikTokで知り合った外国人女性を名乗る相手から暗号資産の取引を勧められ、そのまま取引サイトを案内される流れが確認されています。
案内に従って国内の暗号資産交換業者に口座を開き、そこで購入したイーサリアムを指定された宛先へ送るという手順が示されたとうかがっています。取引そのものは、案内されたサイトの画面上で行う形になっていました。
その後、カスタマーサポートを名乗る相手からチャットで指示を受け、個人名義の銀行口座へ直接振り込むよう求められています。振込と暗号資産の送付を繰り返したのち、不審な点に気づいて相談に至りました。
TikTokを入口として投資へ誘い込む手口
SNSで知り合った相手から投資を勧められる手口について、警察庁は半期ごとに統計をまとめた資料を公表しています。
直近の令和8年(2026年)上半期の資料をみると、被害額は797.9億円(+444.9億円)、認知件数は5,893件(+3,020件)でした。被害額は前年同期のおよそ2.3倍にあたります。
年代別の内訳では、20代から50代が被害額で約4割、認知件数で約6割を占めています。被害額が最も多いのは60代ですが、件数でみれば現役世代が大半です。
同じ資料には、最初に接触があったツールの内訳も載っています。項目として挙げられているのはInstagram、LINE、投資のサイト、Facebook、YouTube、X(Twitter)で、TikTokは個別の項目として示されていません。
本件は、資料の区分にまだ現れていない経路から始まっていることになります。よく知られた入口の一覧に載っていなくても、同じ流れが起きうる点には注意が必要です。
国内の取引所を経由して外部へ送金させる流れ
日本で暗号資産の売買を業として行うには、金融庁または財務局への登録が必要です。登録を受けた事業者は一覧で公表されており、令和8年9月1日現在で27社が掲載されています。
本件で口座を開いた国内の取引所は、いずれもこの一覧に載っている登録業者です。正規の事業者で暗号資産を買うところまでは、通常の手続きと変わりません。
問題は、そこで購入したイーサリアムを外部の宛先へ送る段階にあります。送った先が登録を受けた事業者でない場合、その資産がどこへ移ったのかを利用者の側から追う手段はありません。
本件では、この経路に加えて個人名義の銀行口座への振込も行われています。法人ではなく個人の名義であった点については、後の章であらためて扱います。
dydxt.netという名称の事業者を確認できない
案内されたサイトを開くと、画面の左上に図案化されたマークが表示されます。ただし、そのマークの横にも画面のどこにも、サイトの名称にあたる文字が表示されません。
画面を下へたどると、提携先としていくつかのウォレットサービスのロゴが並び、そのすぐ下に利用者数や対応国数の数字が掲げられています。
▼dydxt.netのトップページに掲げられた提携先と利用者数

出典:dydxt.net
そこには「Number of users 100M+」、つまり利用者数が1億人以上と記されています。ただし、この数を誰がどのように数えたのかを示す記載は見当たりません。
画面最上部の画像内の文章にも気になる点があります。見出しの下に添えられた説明文が、次の文字列のまま公開されています。
▼dydxt.netのトップページと説明文

出典:dydxt.net
Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua. Ut enim ad minim veniam, quis nostrud
これは「Lorem ipsum」と呼ばれる、デザインの見本で使う意味を持たない文章です。本来は完成時に本物の説明文へ差し替えるもので、制作の途中の状態のまま公開されているとみられます。
公的機関が同種の勧誘に注意を呼びかけている
金融庁は、SNSやマッチングアプリで知り合った相手から投資を勧められる事例について、専用のページを設けて注意を促しています。
そこでは、相手と親しくなったところで投資サイトやアプリを案内され、入金後に利益が出たように見せられる流れが示されています。そのうえで、出金しようとすると手数料や税金といった名目で追加の入金を求められる例が挙げられています。
本件では、出金を試みる前の段階でカスタマーサポートを名乗る相手から振込を求められており、名目も異なります。ただし、チャットでのやり取りの中で送金先が指定され、その都度入金を促されるという流れは共通しています。
これらの注意喚起が本記事のトラブルと同一の案件であることまでは確認できませんが、SNSで知り合った相手から投資を勧められた場合は、送金の前に信頼できる第三者へ相談することが重要です。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
・警察庁-令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)
・金融庁-SNS・マッチングアプリ等で知り合った者や著名人を騙る者からの投資勧誘等にご注意ください!
dydxt.netへ誘導され被害につながるまでの経緯

今回のトラブルは、投資を探していない場面での知り合いから始まり、国内の取引所を経由した送金と、個人名義の口座への振込が並行して続いています。
求められた送金の形は途中で切り替わっていますが、指示はすべてチャットの中で出されていました。以下では、最初の連絡から相談に至るまでを順にたどります。
TikTokで知り合った相手から取引を勧められる
きっかけは、動画共有アプリのTikTokで知り合った外国人女性を名乗る相手からの連絡でした。そこから暗号資産の取引を勧められています。
投資先を自分で調べているときではなく、日常的に使うアプリの中で話が持ちかけられています。相手と打ち解けたあとに取引の話へ移っていく流れが本件の特徴です。
以後のやり取りは、この相手と途中から加わったカスタマーサポートを名乗る相手との間で続きます。対面で会うことも契約書を取り交わすこともないまま、送金の指示だけが文字で届いていました。
案内されたサイトに登録して国内の取引所から送金する
案内されたのがdydxt.netです。取引を始めるには、まずこのサイトで利用者登録を行う必要があります。
▼dydxt.netの新規登録画面

出典:dydxt.net
入力を求められるのは、メールアドレスまたは電話番号、認証コード、パスワード、そして招待コードだけです。身分証明書の提出も氏名や住所を書く欄もありません。
画面の下部には「By logging in you agree」に続けて利用規約などへのリンクが並びます。ただし、同意したことを示すチェック欄は置かれていません。ログインすれば同意したものとして扱う形です。
登録を終えたあと、資金の入れ方として案内されたのが国内の暗号資産交換業者の利用でした。そこに銀行振込で入金し、運用が始まっています。
サポートを名乗る相手から個人名義の口座へ振り込むよう求められる
運用が始まってしばらくしたころ、カスタマーサポートを名乗る相手からチャットで指示が届きます。そこで指定されたのが、個人名義の銀行口座への直接の振込です。
暗号資産の取引を行うサイトでありながら、入金の宛先として個人の名前が出てくる点は説明が付きません。法人の口座であれば商業登記で名義を確かめられますが、個人名義ではその手段がありません。
このやり取りでは、振込を急かされたうえ、手続きを終えたことをチャットで報告するよう求められています。返信を重ねるうちに相手を担当者として扱う状態ができていきました。
購入した暗号資産を重ねて外部へ送る
その後は、別の国内の取引所に口座を開くよう案内されています。そこへ銀行振込で入金し、購入したイーサリアムを指定された宛先へ送る手順が示されました。
送金はこの1回では終わりませんでした。同じ手順が短い間隔で繰り返され、銀行振込と暗号資産の送付を組み合わせた形で、送金の回数が積み上がっています。
国内の取引所から外部の宛先へ送った時点で、その資産がどこへ移ったのかを利用者の側から追う手段はなくなります。画面に表示される残高だけが、資産の所在を示すものになっていました。
不審な点に気づき被害につながる
送金を重ねたのち、やり取りの内容に不審な点があることに気づき相談に至っています。警察への相談も検討されている状況です。
本件では、出金を申し出て断られたという段階には至っていません。その前の入金を重ねている段階で立ち止まった形です。
ただし、送った資金と暗号資産が戻っていないという点は変わりません。残高の数字は画面で見られますが、その資産を実際に手元へ戻せるかどうかを利用者が確かめる手段はありません。
このサイトのプログラムには、出金の前に借入や審査を挟む仕組みが組み込まれていました。次の章では、まずドメインがいつ取得されたものかを確認していきます。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
dydxt.netの関連サイトの情報を調査した結果

前章では、画面のどこにも運営者の名称が出てこないことに触れました。ここからは、サイト外部に残る記録をたどります。
調べたのは4つです。登録機関が公開するドメインの記録、証明書の発行履歴、サイトが掲示する米国の登記、そして日本の当局が公表する一覧になります。
| URL | dydxt.net |
|---|---|
| ドメインの登録日 | 2026年6月12日 |
| 有効期限 | 2027年6月12日 |
| 登録機関 | Dominet (HK) Limited(香港) |
| ネームサーバー | Cloudflare |
| 証明書の最も古い記録 | 2026年6月13日 |
| 掲示されている法人 | Emcex Internet Technology inc |
| 法人の設立日 | 2025年10月14日(米国コロラド州) |
ドメインが取得されたのは2026年6月12日
ドメインをいつ押さえたかという記録は、RDAPという仕組みで公開されています。指定のアドレスをブラウザで開くだけで、登録機関が保持する内容を確認できます。
▼dydxt.netの登録記録(registrationが登録日を示す)

出典:ベリサイン(RDAP)
registrationの項目に記されていたのは2026年6月12日です。相談の経緯は同じ年の8月から9月にかけてのできごとで、ドメインを押さえてから3か月と経たないうちに勧誘が始まっている計算になります。
有効期限は登録の1年後です。登録機関は香港の事業者で、ネームサーバーには通信を中継するサービスが指定されています。登録者が誰であるかを示す欄は公開されていません。
参考までに、同じ名前で連想されやすいdYdXという取引所の公式ドメインは、2017年と2022年に登録されたものです。文字の並びは似ていても、記録に残る年が9年ほど離れています。
証明書の発行履歴もドメインの取得日と重なる
暗号化通信に使う証明書には、発行された事実が公開の台帳に残ります。「crt.sh」で対象のドメインを検索すると、その台帳の中身が一覧で表示されます。
▼dydxt.netに対して発行された証明書の一覧(Not Beforeが発行日)

出典:crt.sh
並んだ記録をさかのぼると、最も古いものは2026年6月13日です。ドメインを登録した日の翌日にあたり、用意された翌日には通信できる状態になっていたことが分かります。
そのあとは記録が途切れ、2026年8月10日から11日にかけて10件がまとめて発行されています。相談として寄せられている最初の送金は、この更新の直後にあたります。
1通あたりの有効期間は3か月ほどで、切れる前に新しいものへ差し替えられます。過去の記録は削除されないため、サイトの稼働がいつ始まったのかはあとからたどることが可能です。
掲示された法人の登記は2025年10月14日
このサイトは、画面の中に米国の公的な書類を2通掲載しています。1通は法人の登記に関する書類で、もう1通は次の章で扱う財務省の登録通知です。
書類に記された法人名は「Emcex Internet Technology inc」です。米国コロラド州の州務長官が運営する検索ページで、この名称の法人を照会できます。
▼コロラド州務長官の記録に表示されるEmcex Internet Technology incの登記情報

出典:Colorado Secretary of State
照会の結果、この法人は実在し、状態は「Good Standing」と表示されます。設立日は2025年10月14日で、法人の形態はCorporation、管轄はコロラド州です。
ただし、主たる事務所の所在地はテキサス州ヒューストンの住所が登録されています。設立したのはコロラド州で、事務所の所在地は別の州という形です。
なお、登記があることと、その法人が日本で暗号資産の取引を行える立場にあることは別の話です。日本での登録については、この章の最後で確かめます。
アプリの配布元が別のドメインになっている
サイトの下部には、iOS版とAndroid版のアプリを入手するためのボタンが置かれています。プログラムを取得して、それぞれの配布先を調べました。
指定されていたのは「bifan.co」という、画面に表示されているものとは別のドメインでした。iOS版はApp Store、Android版はGoogle Playではなく、このドメインから直接受け取る形になっています。
iOS版として指定されていたファイルの拡張子は「.mobileconfig」です。これはアプリではなく、端末の設定そのものを書き換える「構成プロファイル」と呼ばれるもので、通常のアプリより広い権限を持ちます。
このドメインは、証明書の記録では2020年から2026年8月まで継続して使われていました。ただし現在はアドレスを解決できず、ボタンから配布先へたどり着けない状態です。
金融庁の記録に名称が見当たらない
日本で暗号資産の取引を業として行うには、金融庁または財務局への登録が必要です。この点は、金融庁が公表している一覧の冒頭にも記されています。
▼金融庁の暗号資産交換業者登録一覧に記された注意点

出典:金融庁
この一覧に、dydxt.netという名称も、掲示されている法人名も載っていません。無登録業者の一覧のほうでも、ページ内検索で一件も見つかりませんでした。
▼金融庁の無登録業者一覧で「Emcex」を検索した結果(0/0)

出典:金融庁
ただし、掲載がないことが安全の根拠にはなりません。無登録業者の一覧は、当局が警告書を出した相手を集めたものです。載っていないのは、まだ把握されていないという可能性も含みます。
登録された業者にも、警告を受けた業者にも名前がない。つまり、日本の当局が持っている記録のどこにも現れていないということになります。取引を始める前にこの2つの一覧を検索すれば、その状態を確かめることが可能です。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
・Colorado Secretary of State-Business Database Search
・金融庁-無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について(HTML版)
dydxt.netに関する不審点

ここからは、サイトの中に置かれている文書を読んだ結果わかったことを解説していきます。利用規約、会社概要、掲示された公的書類、そして貸出に関する説明を順に確認しました。
いずれも登録やログインをせずに開けるページです。画面右上の地球儀のマークから表示言語を切り替えられるため、同じページを言語ごとに見比べることもできます。
言語を切り替えると名乗る会社名が変わる
最初に気づいたのは、表示言語を変えると文書に出てくる会社名が入れ替わるという点です。
たとえば貸出サービス契約のページは、日本語にすると次のように始まります。
▼表示言語を日本語にしたときの貸出サービス契約

出典:dydxt.net
この貸出サービス契約(以下「本契約」といいます)は、Trust Core 利用規約(以下「利用規約」といいます)の一部を構成するものとします。
契約の相手方として示されているのは「Trust Core」です。同じページで表示言語を繁体字中国語に切り替えると、同じ場所がこうなります。
▼同じページを繁体字中国語で表示したところ

出典:dydxt.net
本《借幣服務協議》(“本協議”)構成《 BiFan 使用條款》(“使用條款”)的一部分。
こちらでは「BiFan」という別の名前になります。英語に切り替えた場合も、同じ箇所は「BiFan」でした。URLは同じで変えたのは表示言語だけです。
免責事項のページでも同じことが起きます。日本語では「Trust Core は、以下の点について厳粛にお知らせいたします」と始まり、繁体字中国語では「BiFan 鄭重提醒您」となります。
利用者が契約を結ぶ相手の名前が、読む言語によって変わる状態です。どちらの名前も前章で確認した登記上の法人名とは一致しません。
会社概要の設立年と本社が掲示された登記と一致しない
会社概要のページを日本語で開くと、冒頭に社名と設立の経緯が記されています。
▼表示言語を日本語にしたときの会社概要

出典:dydxt.net
Trust Coreは2018年に設立され、米国シリコンバレーに本社を置いています。
設立は2018年、本社は米国のシリコンバレーという説明です。一方、このサイトが自ら掲示している登記書類の法人は、コロラド州で2025年10月14日に設立され、事務所の所在地はテキサス州ヒューストンでした。
設立の年で7年、所在地でも州が2つずれています。同じ事業者の説明として読むには、開きが大きすぎます。
なお、英語と繁体字中国語で同じページを開くと社名の部分が抜け落ちます。英語版は「was founded in 2018 and is headquartered in Silicon Valley, USA.」と、主語のないまま始まります。
掲示された登録通知そのものが注意を促している
サイトは「Regulatory Compliance(規制順守)」という見出しで、米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が発行した登録通知を掲示しています。
▼サイトが掲示しているFinCENの登録通知(赤枠の位置に注意書き)

出典:dydxt.net(掲示されているのはFinCENの文書)
記されているのは、MSB登録番号「31000313069220」と、法人名「Emcex Internet Technology inc」です。前章で確認した登記と同じ法人になります。
ただし、この文書の上のほうには次の一文が印字されています。掲示している側が、自ら注意書きも一緒に載せている形です。
FinCEN does not recommend, approve, or endorse any business that registers as a money services business. Any such claim and similar claims are false and may be part of a scam or attempt to deceive consumers.
(FinCENは、マネーサービスビジネスとして登録した事業者を推奨・承認・是認するものではありません。そうした主張およびこれに類する主張は虚偽であり、詐欺または消費者を欺く試みの一部である可能性があります。)
同じ文書には「FinCENはMSBが提出した情報を検証しません」とも書かれています。つまりこの通知は届出を受け取ったという記録であって、事業の内容を確かめた証明ではありません。
運営者の名称や所在地の表示がない
パソコンでサイトを開き、画面の一番下まで見ていくと案内の項目が並ぶ区画に行き当たります。
▼パソコンで表示したdydxt.netの最下部(赤枠の位置が唯一の連絡先)

出典:dydxt.net
並んでいるのは「About Us」「Product」「Assets」「Service」という4つの見出しと、その下のリンクだけです。運営している会社の名称も、所在地も、電話番号も記載がありません。
右側に唯一置かれている連絡先が赤枠で示した次の1行です。
VIPServe:[email protected]
無料のメールサービスのアドレスで、しかも先ほどの「BiFan」という名前が含まれています。問い合わせ先として示されているのはこのアドレスだけです。
メニューには「登記情報」にあたるページも用意されています。ただし開くと、見出しは「UK Company and foundation(英国法人および財団)」と表示され中身は空白でした。
▼「登記情報」のページ ※見出しは英国法人とあるが中身は表示されない

出典:dydxt.net
掲示されている書類は、米国のもので英国ではありません。見出しと掲示物が食い違ったまま中身は何も出てこない状態です。
日本語に切り替えても他国向けのまま残る説明がある
表示言語を日本語にしても、一部のページは英語のまま変わりません。たとえば裁定取引のしくみを説明するページには、次の一文が残っています。
The price difference between Brent crude oil at $2,500 per barrel and London crude oil at $2,502 …
ブレント原油を「1バレル2,500ドル」として説明していますが、実際の相場はこの数十分の1です。例として挙げるには現実の価格とかけ離れています。
本人確認のレベルを説明するページも英語のままです。新規公開株の説明では、日本語になっているものの「20営業日の平均株式受渡代金が10,000元以上」という、中国本土の制度をそのまま訳した記述が残っています。
日本円ではなく中国元を単位にした条件が、日本語のページに出てくる形です。もともと別の国の利用者に向けて作られたものを翻訳して使っている可能性があります。
出金を妨げる仕組みがあらかじめ用意されている
貸出ルールの説明ページには、担保を預けて資産を借りるしくみが日本語で書かれています。
▼日本語で表示される貸出ルールの説明

出典:dydxt.net
説明によると、担保の価値が借りた資産の一定割合(例として120%)を下回ると、追加の担保を入れるか、借りた分を返す必要があるとされています。
サイトのプログラムを取得して調べたところ、この貸出に使う契約書の文面も組み込まれていました。ただし日本語としては通っておらず、元本を意味する語が「校長」、「〜し得る」を意味する語が「5月に」と訳された箇所が残っています。
同じプログラムには、「引き出しが届かないのはなぜですか」「私の入金が審査されるのはなぜですか」「注文は審査待ちです」といった文言も用意されていました。出金が滞ったときに表示する説明が、あらかじめ書かれていることになります。
さらに、利用者の状態が「停止」になったときの動きとして、出金の画面だけを開けなくする設定が確認できました。ほかの画面はそのまま使える一方、出金の手続きにだけ進めなくなる形です。
なお、これらはプログラムそのものを取得して確認したもので、登録・ログイン・入金・チャットの送信は一切行っていません。貸出の契約書を画面で読むにはログインが必要で、登録前の利用者が内容を確かめる手段はありません。
▼貸出契約のページを開くと表示される案内

出典:dydxt.net
資金を預ける前に契約の中身を読みたくても、先に口座を作らなければ読めないという順序になっています。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
dydxt.netのようなサイトが悪用されやすい理由

前章で挙げた不審な点は、どれも手順を踏めば確認できるものです。それでも送金が重なった背景には、確かめる手がかりが利用者の側に届きにくい事情があったとみられます。
この章では、そうした状況を4つに分けて整理します。
暗号資産の取引は仕組みを確かめにくい
取引サイトの画面には、保有している資産の量や損益が数字で表示されます。ただし、その数字を作っているのはサイト側のプログラムです。
利用者が入金した資産が本当に市場で運用されているのか、それとも画面に数字が書き込まれているだけなのかを外から見分ける方法はありません。利益が出ているように見えても、その根拠は画面の表示だけです。
本件では、国内の取引所で購入したイーサリアムを指定された宛先へ送っています。いったん外部へ送ると、その資産がどこへ移ったのかを追う手段はなくなります。
暗号資産の送金は、銀行振込のように後から取り消す手続きがありません。そのため、送る前に宛先と相手を確かめることが重要です。
やり取りがSNSとメッセージアプリの中で完結する
本件の入口はTikTokでした。その後のやり取りも、知り合った相手と途中から加わったカスタマーサポートを名乗る相手との間で、画面の中だけで続いています。
サイト側の連絡先も同じです。画面に示されているのは無料のメールサービスのアドレスが1件だけで、電話番号も所在地も見当たりません。
やり取りがこの範囲で完結すると、家族や知人が会話の内容を目にする機会がありません。そのため、第三者から「それは詐欺ではないか」と指摘を受ける場面も生まれません。
だからこそ、送金を指示された時点でそのチャット画面をそのまま家族や弁護士に見せて意見を聞くことが、手続きを止める手段やきっかけになります。
送金の手段が日常的に使うものになっている
本件で指定された送金先は、国内の暗号資産交換業者の口座と、個人名義の銀行口座でした。どちらも、普段使っている銀行のアプリから手続きできます。
最初の入金先が、金融庁に登録された国内の事業者である点も判断を難しくしています。口座を開く手続きも本人確認も通常通りで、そこまでは何の問題も起きません。
問題が生じるのは、その口座から外部の宛先へ送る段階です。ただし利用者から見れば、画面の操作は入金のときと変わりません。取り返せなくなる送金なのかどうかが、操作の画面には出てこないということです
なお、個人名義の口座への振込を求められた場合は、その名義を商業登記で確かめることができません。法人名であれば国税庁の法人番号公表サイトなどで所在地を照会できますが、個人名ではその手段がない点は押さえておく必要があります。
海外の登録や書類は利用者が真偽を判断しにくい
このサイトは、米国の州の登記書類と財務省の登録通知を画面に掲載しています。どちらも実在する機関が発行した文書です。
ただし、それぞれの文書が何を証明していて何を証明していないのかは、その国の制度を知らなければ判断できません。前章で見たとおり、掲示された通知自体に「推奨や承認ではない」と印字されていました。
海外の書類を見せられたとき、利用者が確かめられるのは日本の制度における登録の有無です。暗号資産の取引を日本で業として行うには、金融庁または財務局への登録が必要になります。
登録を受けた事業者は金融庁のサイトで一覧として公表されており、名称を検索すれば数分で確認できます。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
dydxt.netの不審点を見抜く方法

前章までに取り上げた点は、画面を見れば分かるものと公開されている記録を確認して分かるものに分かれます。いずれも口座を作る前に確かめられる内容でした。
暗号資産の取引を勧められたときに使えるよう、確認の手順を6つに分けて示します。
- ドメインの取得日を、勧誘を受けた時期と並べてみる
- ブラウザで「https://rdap.org/domain/」に調べたいドメイン名をつないだアドレスを開きます。表示されるのは登録機関の記録そのもので、見る行は「registration」です。勧誘を受けた時期のほうが、ドメインの取得日より前でないかを確かめてください。本件では取得から3か月と経たないうちに勧誘が始まっていました。証明書の発行履歴も「crt.sh」で確認できるので、あわせて見るとサイトが動き出した時期を2つの記録で裏づけられます。
- 掲示された法人名と設立日を、その国の登記で照会する
- 海外の登記書類を見せられたら、その書類を読み込む前に発行元の機関のサイトで法人名を検索してください。米国であれば州ごとに州務長官が検索ページを公開しています。本件の法人はコロラド州の記録に実在しましたが、設立日は2025年10月14日で、サイトが名乗る「2018年設立」とは合いませんでした。書類の存在と、その書類に書かれた内容が説明と一致するかは別に確かめる必要があります。
- 暗号資産を扱う相手なら、金融庁の交換業者一覧で名称を探す
- 暗号資産の売買を日本で業として行うには、金融庁または財務局への登録が要ります。登録を受けた事業者は「暗号資産交換業者登録一覧」として公表されており、令和8年9月1日現在で27社です。この一覧に載っているかどうかは、名称を検索すれば分かります。無登録業者の一覧もあわせて確認してください。どちらにも出てこない場合は、公的な記録のどこにも現れていない状態だといえます。
- ページを最下部までスクロールして、運営会社の名称を探す
- 利用者から資金を受け取る事業であれば、運営している会社の名称と所在地は画面上のどこかに示されるのが通常です。探す場所は決まっていて、ページを下までたどった先にある案内の区画です。本件のサイトはそこに4つの見出しとリンクだけを並べ、会社名も住所も電話番号もなく、連絡先は無料のメールサービスのアドレス1件だけでした。名称が分からなければ前の項目の登録照会もできません。
- 表示言語を切り替えて、同じページの記載が変わらないかを見る
- 多言語に対応したサイトでは、画面の端に言語を選ぶボタンが置かれています。利用規約や会社概要のページを開いたまま、言語を切り替えて同じ場所を読み比べてください。本件では、貸出サービス契約の相手方が日本語で「Trust Core」、繁体字中国語と英語で「BiFan」と表示されました。同じURLで会社名が入れ替わるのであれば、その文書はひな型を流用したものである可能性があります。
- アプリを勧められたら、入手先がApp StoreかGoogle Playかを確かめる
- 配布のボタンを押す前に、リンク先がAppleやGoogleのストアなのか、それ以外のドメインなのかを見てください。本件はどちらのストアでもなく、サイトとは別のドメインからの直接配布でした。iOS版として用意されていたのはアプリではなく「構成プロファイル」で、端末の設定そのものを書き換える仕組みです。ストアを経由しない配布を求められた時点で、一度手を止める判断ができます。
4つ目と5つ目に挙げた確認は、画面を見るだけで終わります。どちらも1分ほどで済み、相手に何かを尋ねる必要もありません。
すでに送金している場合に、まずお願いしたいのは追加の入金に応じないことです。そのうえで手元に残っている記録を集めてください。対象は振込の控え、取引所の入出金履歴、送金先の暗号資産アドレス、チャットの画面です。
暗号資産の送金は、宛先と金額がブロックチェーン上に記録として残ります。集めた記録を整理して、早い段階で弁護士などの専門家へ状況を伝えることをお勧めします。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
・Colorado Secretary of State-Business Database Search
dydxt.netに関する口コミや被害事例

先に使った人の書き込みが残っていれば、勧誘された段階で判断の手がかりになります。そこで、ドメイン名と画面に現れる名称を手がかりに、SNSと掲示板を調べました。
Xでは関連する投稿が確認できない
X(旧Twitter)では、ドメイン名と、前章で挙げた「Trust Core」「BiFan」という2つの名称で調べました。3つとも、このサイトを使ったと述べる投稿は見当たりませんでした。
ドメインの文字の並びが有名な取引所に似ているため、検索結果にはその取引所に関する投稿が並びます。本件のサイトに触れたものは、その中に見当たりません。
Yahoo!知恵袋にも本件と特定できる投稿がない
Yahoo!知恵袋も同じ3語で調べています。このサイトの名前を出して相談している投稿はありません。
暗号資産の投資サイトから出金できないという相談自体は、数多く投稿されています。ただし、いずれもサービス名が書かれていないか本件とは別の名称が挙げられているものでした。
検索結果や掲示板にも情報がない
投資関連の掲示板や、被害情報を集めているサイトも一通り見ました。このドメインを取り上げたページは見つかりません。
ただし、進み方がよく似た事例が報道されています。2026年9月7日に青森放送が伝えた、外ヶ浜警察署の発表です。
TikTokを介して、自称投資家で韓国人を名乗る男が使用するLINEアカウントを登録
報道によると、青森県内の50代女性が7月28日に「私が運用している暗号資産取引所に暗号資産を送信してもらえれば、直ぐに利益が出てもうかる」と勧められ、3回にわたり時価合計136万7,231円相当の暗号資産を送ったとされています。
アプリ上には約200万円の利益が表示されていましたが、追加の投資を執拗に求められたことから不審に思い、詐欺だと気づいたと伝えられています。
TikTokが入口になっている点、暗号資産を送る形で資金を渡している点、画面上には利益が表示されている点が本件と重なります。
国民生活センターも、マッチングアプリで知り合った相手から暗号資産の投資サイトを勧められ、出金できなくなった相談を公表しています。そこでは、出金を申し出た段階で手数料や保証金の支払いを求められる流れが示されています。
ただし、これらが本記事のトラブルと同一の案件であることまでは確認できません。報道の事例で名乗られたのは男性で、勧誘に使われたのも別のアプリでした。
送金した人が現にいるのに、その経験はどこにも書き込まれていません。なぜそうなるのかを次の章で扱います。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
・Yahoo!ニュース(青森放送)-TikTokで知り合った男に136万円相当の暗号資産だまし取られる AI相談で被害発覚 青森・外ヶ浜警察署発表
・国民生活センター-マッチングアプリで知り合った人から勧められた暗号資産の投資サイトに手数料を支払ったが、出金できない
dydxt.netに関する口コミが少ない理由

書き込みが出てこない事情は、大きく3つに分けられます。
検索するための名前が存在しない
1つ目は、このサイトに呼び名が定まっていないことです。画面のどこにもサイト名が出ず、文書に現れる会社名は表示言語によって入れ替わります。
体験を書き残そうとしても、見出しに何と書けばよいのかが決まりません。読む側も、検索の窓に入れる語を持てないままになります。手元に残るのはドメイン名だけですが、これは有名な取引所と文字の並びが似ているため、入力しても別の情報に埋もれてしまいます。
検索結果にも保存記録にも残っていない
2つ目は、このサイトの記録が外に残らないことです。検索を避ける指定が入っており、取引画面のプログラムに「<meta name=”robots” content=”noindex, nofollow”>」と書かれています。検索エンジンに対して、このページを登録しないよう伝えるものです。ブラウザでソースを表示すれば、この行は誰でも確かめられます。
さかのぼって調べる手立てもありません。ウェブページを保存しているインターネットアーカイブに、このドメインの記録は1件もありませんでした。加えて、ドメインが取得されたのは2026年6月12日です。誰かが書き込み、それが検索で拾われるまでの時間そのものが足りていません。
やり取りが当事者の外に出ない
3つ目は、勧誘の経路が閉じていることです。入口はTikTokで、そのあとのやり取りは知り合った相手と、カスタマーサポートを名乗る相手とのチャットでした。第三者がその会話を目にする場面はなく、検索からたどり着く道もありません。
この3つが重なると、このサイトについては悪い評判も良い評判も出てきません。何も出てこないという結果を、問題がないことの裏づけとして扱うことはできません。
入金する前に頼れるのは、他人の感想ではなく公開されている記録です。前章に挙げた6つの手順をたどれば、ドメインの取得日、運営者の名称が示されているかどうか、日本での登録の有無を調べられます。
すでに送金している場合は、追加の入金に応じる前に手を止めてください。振込の控え、取引所の入出金履歴、送金先のアドレス、チャットの画面をそろえたうえで弁護士などの専門家に見てもらうことをお勧めします。
【参考】
・dydxt.net(https://dydxt.net/)
