恋愛感情を抱いた相手から、二人の将来のためにと投資を勧められ、言われるままにお金を振り込んでしまう。令和8年8月末の暫定値として警察庁が示したSNS型ロマンス詐欺は、認知件数3,506件、被害額325.8億円です。
相談者は恋愛感情を抱いた相手の勧めで「ironfxmarket.org」の取引サイトを使い、銀行振込を重ねました。その後、実在のFX業者「IronFX」のロゴを掲げる「ironfxmarket.vip」でアカウントが無効と表示され、相手とも連絡が取れなくなりました。
調べると、サイトのプログラムにはアカウントを無効にする文言や、借入を理由に出金を断る文言が用意されていました。設定上の会社名は「iron」、所在地はニューヨークで実在のIronFXとは一致しません。
2つのアドレスの登録記録とサイトのプログラムを、実在のIronFXや公的機関の資料と照らし合わせ、送金の前に相手・サイト・お金の順で確かめたい点を弁護士が解説します。
IronFXを装う偽サイトに関するトラブルの概要

今回の相談は、恋愛感情を抱いた相手から投資を勧められ、実在のFX業者IronFX(アイアンFX)のロゴを掲げる取引サイトを使い始めたことが発端です。振込を重ねたあと、アカウントが無効と表示され相手とも連絡が取れなくなりました。
この章では、恋愛感情につけ込む勧誘への警察庁と国民生活センターの注意喚起、実在のIronFXの運営会社、金融庁の一覧での扱い、実在のIronFXが示す連絡と入金の決まりの4点を取り上げます。
恋愛感情につけ込んで投資を勧める手口に警察庁と国民生活センターが注意喚起
警察庁は、直接会わずにやり取りを続けて恋愛感情を抱かせ、金銭をだまし取る手口を「SNS型ロマンス詐欺」と呼び、特設ページで「「2人の将来のために投資を」「あなたと結婚するためにお金が必要」は、だましの手口!」と呼びかけています。
▼「2人の将来のために投資を」を手口とする警察庁のページ

出典:警察庁
説明によると、初めは利益が出たように見せかけ、出金しようとするとさらに送金を求めて最後は連絡が取れなくなります。国民生活センターの資料にも、アプリで出会った女性に言われるままFXの口座を開いた人の相談が載っています。
(前略)
FX口座を開設するために運転免許証の写真を送付し、投資金として、国内の銀行の外国人名義の口座に10万円を振り込んだ。(中略)もうけ分の出金を依頼したが、既読になっているのに返信が来ない。
(後略)
▼FXを勧められた後に返信が途絶えた国民生活センターの相談事例

出典:国民生活センター
これらの注意喚起が本記事のトラブルと同一の案件であることまでは確認できませんが、海外のFXの画面で取引をさせ、国内の銀行の口座へ振り込ませた後に連絡が途絶えるという流れは、今回の相談と重なります。
実在のIronFXはNotesco (BVI) Limitedの商号で現在はironfx.coを窓口にしている
実在のIronFXは、FXやCFD(差金決済取引)の取引を提供している海外の会社です。日本語の公式サイトの最下部に、運営会社と免許を次のように記しています。
IronFXは、Notesco (BVI) Limitedの商号です。同社は、イギリス領バージン諸島の金融サービス委員会(FSC)より投資業務免許番号SIBA/L/24/1175を取得しており、登録住所はPO Box 4301, Road Town, Tortola, British Virgin Islandsです。
▼Notesco (BVI) Limitedの商号とする実在のIronFXの表記

出典:IronFX
本来の公式サイトironfx.comは2026年9月24日から開かず、IronFXは臨時の窓口としてironfx.coを案内しています。ironfxmarketの2つのアドレスはどちらとも違い、実在のIronFXによって運営されていることを示す情報は確認できませんでした。
金融庁の無登録業者の一覧にはIronFXのサービス名が2度掲載されている
警告書を受けた無登録の業者について、金融庁は名前と勧誘の中身、掲載の時期を表にして公表しています。この表を「IronFX」で探すと2つの行が見つかります。
▼IronFXの名前が2つの行に出てくる金融庁の無登録業者の一覧

出典:金融庁
令和2年3月の「Notesco Limited」の行には「当該業者が提供するサービス(FX取引等)の名称は「IronFX」、「FXGiants」、「FXlift」である。」とあり、平成24年6月の「IronFX Limited (ironforex)」の行もあります。
この2つの行から、実在のIronFXも日本で登録を受けた業者ではないと分かります。本物の名前であることは、金融庁の登録業者と同じ扱いを受けられる理由にはなりません。
実在のIronFXは自社のドメイン以外で連絡せずポータルの外での入金も求めないと案内している
実在のIronFXは日本語の「IronFXの安全性」のページで、会社として行わないことを並べており、その1つが次の項目です。
クライアントポータルにない方法での入金を要求する。(システムエラーがある場合を除く)
▼ポータルの外での入金を求めないとする実在のIronFXの案内

出典:IronFX
行うことの欄には「IronFXのドメイン(ironfx.co)を介してのみ連絡を取ること。」とあります。クライアントポータルは、口座を持つ人が入出金などをする専用の画面です。
ironfxmarketの2つのアドレスはironfx.coではありません。取引の画面や窓口のアドレスが公式のドメインと違う場合は、入金を止めてIronFXの案内と照らし合わせてください。
【参考】
・ironfxmarket.vip(https://user.ironfxmarket.vip/)
・国民生活センター-「愛してるから投資して」っておかしくない!?-マッチングアプリ等で知り合った人に騙されないためのチェックリスト-
・IronFX(https://www.ironfx.co/ja/)
・IronFX(アイアンFX)(X)(https://x.com/japan_ironfx/status/2103012135433277551)
・金融庁-無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について(HTML版)
・IronFX-アカウントセキュリティ(https://www.ironfx.co/ja/ironfx/account-security/)
IronFXを装う偽サイトへ誘導され被害につながるまでの経緯

ironfxmarketの2つのアドレスとの接点は、恋愛感情を抱いた相手から投資を勧められたことでした。取引サイトを使い始めたところから、銀行の口座への振込、別のアドレスで表示されたアカウントの無効、相手との連絡が途絶えるまでを、4つの場面に分けて見ていきます。
恋愛感情を抱いた相手の勧めでironfxmarket.orgの取引サイトを使い始める
相談者は、恋愛感情を抱いた相手から投資を勧められ、ironfxmarket.orgの取引サイトを使い始めました。このアドレスは現在開けないため、ここではironfxmarket.vipのログイン画面を示します。言語を日本語に切り替えると、実在のIronFXのロゴの下に日本語の入力欄が並びます。
▼IronFXのロゴを掲げるironfxmarket.vipのログイン画面

出典:ironfxmarket.vip
ロゴの横には「15 YEARS」の記章が添えられ、下には「口座開設は不要、すぐにデモ口座を作成して取引を始めましょう!」というボタンもあります。画面の作りだけでは、実在のIronFXの口座と見分けるのは難しいでしょう。
数日のうちに振込先の銀行が毎回替わる
取引の資金は、銀行の口座への振込で入れていました。振込の記録を見ると、相談者は数日のうちに、振込のたびに別の銀行の口座へ送金しています。サイトが銀行振込の振込先をどう扱う作りだったかは、後の章でプログラムから確かめます。
実在するIronFXの案内では、銀行振込の振込先は口座を持つ人の専用の画面に表示され、そこに出る会社の口座へ振り込む流れです。振込先の銀行が毎回替わる入金はこの流れから外れています。振込の明細は、送金先を調べる際の出発点になるので捨てずに保管してください。
取引サイトとは別のアドレスのログイン画面でアカウントの無効が表示される
取引をしていたのはironfxmarket.orgのサイトでしたが、相談者が見たログイン画面は、ironfxmarket.vipという別のアドレスのものでした。その画面には、ユーザーのアカウントが無効になっているとの表示が出ています。
アカウントが無効になれば、画面上の残高を確かめることも出金を申し込むこともできません。2つのアドレスの関係と、ironfxmarket.vipがいつ用意されたかは次の章で詳しく取り上げます。
アカウントの無効の表示を境に相手からの返信も途絶える
アカウントが使えなくなり、投資を勧めた相手とも連絡が取れなくなったことで、相談者はだまされたと気づきました。取引の画面と相手の両方に、手が届かなくなったことになります。
振り返ると、恋愛感情を抱いた相手の勧め、IronFXのロゴを掲げた取引サイト、振込のたびに替わる銀行の口座、別のアドレスでのアカウントの無効が重なったことが被害につながりました。
アカウントが急に使えなくなり、相手とも連絡が取れなくなったら、取引の画面や振込の明細、相手とのやり取りを保存したうえで、早めに専門家に相談してください。アドレスや相手のアカウントが消える前に記録を残しておくことが、その後の手続きの土台になります。
【参考】
・ironfxmarket.vip(https://user.ironfxmarket.vip/)
・IronFX-入出金方法(https://www.ironfx.co/ja/deposit-withdrawal-ja/)
IronFXを装う偽サイトの関連サイトの情報を調査した結果

この章では、ironfxmarket.orgの取得と停止、ironfxmarket.vipの取得の日時、データの送り先を決める仕組み、問い合わせ先のメールのドメイン、金融庁の検索結果の5点を見ていきます。1つ目のアドレスは登録の窓口に止められ、2つ目は相談者が被害に気づいた翌日に取得されていました。
下の表は、ironfxmarketの2つのアドレスと実在のIronFXが本来使ってきたironfx.comの登録の記録です。表の日付は、どれも記録のとおり協定世界時で載せています。
| 項目 | ironfxmarket.org | ironfxmarket.vip | ironfx.com(実在のIronFX) |
|---|---|---|---|
| 登録日 | 2026年7月23日 | 2026年9月30日 | 2008年2月10日 |
| 登録の窓口(レジストラ) | Gname.com Pte. Ltd. | Dynadot Inc | EuroDNS S.A. |
| 状態 | client hold(利用の停止) | 利用中 | - |
| 記録の確認先 | RDAP(rdap.publicinterestregistry.org) | RDAP(rdap.nic.vip) | RDAP(rdap.verisign.com) |
ironfxmarket.orgは2026年7月に取得され9月には登録の窓口に止められている
RDAPという登録情報の公開の仕組みでironfxmarket.orgを引くと、取得は2026年7月23日でした。状態の欄には「client hold」とあり、登録の窓口(レジストラ)がアドレスの利用を止めていることを示します。
▼登録日と利用の停止が並ぶironfxmarket.orgの登録情報

出典:rdap.publicinterestregistry.org
記録の最終更新は9月23日です。停止が付いた日付そのものは記録に出てきませんが、現在このアドレスは開けず、Internet Archiveなどにも画面の記録は残っていません。
ironfxmarket.vipは相談者が被害に気づいた翌日の午前3時に取得されている
ironfxmarket.vipの登録日時は、RDAPでは2026年9月30日18時3分(協定世界時)です。日本時間に直すと10月1日の午前3時3分で、相談者がだまされたと気づいた日の翌日の未明にあたります。
▼ironfxmarket.vipと実在のironfx.comの登録日

出典:rdap.nic.vip、rdap.verisign.com
相談者がアカウントの無効の表示を見たのは、このironfxmarket.vipのログイン画面でした。取引に使われたアドレスとは別に、新しいアドレスが用意されていたことになります。実在のironfx.comは2008年の取得で18年の開きがあります。
データの送り先は開いているアドレスに合わせて自動で切り替わる作りになっている
ironfxmarket.vipのページのソースを開くと、画面が読み込むデータの送り先を決める部分があります。そこには「https://tiger.」に、開いているアドレスの末尾を付けて送り先にする処理が書かれています。
▼アドレスの差し替えに対応すると書かれたページのソース

出典:ironfxmarket.vip
その上の中国語のコメントは「域名映射配置 – 支持动态域名替换」で、ドメインの対応の設定が動的な差し替えに対応しているという意味です。アドレスを替えても同じ仕組みと利用者のデータを使い続けられる作りとみられ、新しいアドレスでアカウントの状態が表示されたこととも矛盾しません。
問い合わせ先のメールアドレスは2026年8月に取得された別の名前のドメインのもの
サイトの設定を返すアドレスをページのソースとして開くと、問い合わせ先のメールアドレスは「[email protected]」になっています。ironltdpr.comの登録日は、日本時間の2026年8月8日でした。
▼問い合わせ先のメールと2026年8月に取得されたドメイン

出典:ironfxmarket.vip、rdap.verisign.com
実在のIronFXは、ironfx.coのドメインを通じてだけ連絡を取ると案内しています。ironltdpr.comはironfx.coとは別のドメインで、ironfxmarket.orgの取得からも2週間ほど後に用意されたIronFXの公式とは関係のない名前です。
金融庁の一覧と一括検索にironfxmarketの名前は出てこない
金融庁の無登録業者の一覧と財務局の警告業者のデータを「ironfxmarket」で調べても、該当はありません。金融事業者一括検索の画面でもこの語では1件も見つからず、結果の欄の上に「該当するデータはありませんでした。」と出ます。
▼ironfxmarketで該当のない金融庁の金融事業者一括検索

出典:金融庁
検索結果の画面には検索した語が出ないため、ここでは「ironfxmarket」で調べた結果であることを書き添えます。ただし、掲載がないことが安全の根拠にはなりません。アドレスを替えながら動くサイトは、一覧に載る前に別のアドレスへ移ることもあります。
その他に確認した結果についても、あわせて以下に挙げておきます。
- Googleのセーフブラウジングでuser.ironfxmarket.vipとtiger.ironfxmarket.vipを調べると、どちらも「安全ではないコンテンツは見つかりませんでした」と表示される(2026年10月6日時点)
- ウェブページの保存サービスInternet Archiveと、サイトの記録を集めるurlscan.ioに、2つのアドレスの記録はない
- ironfxmarket.vipは配信の中継サービスCloudflareを通しており、同じサーバーにある別のサイトはたどれない
画面の記録が残らず、アドレスまで替わるサイトは、後から調べ直すことが難しくなります。取引の画面を開いたときは、アドレス欄の文字が読める形で画面を保存し、開いた日付も控えておくと相談の際に相手のサイトを特定する手掛かりになります。
【参考】
・ironfxmarket.vip(https://user.ironfxmarket.vip/)
・RDAP-ironfxmarket.org(https://rdap.publicinterestregistry.org/rdap/domain/ironfxmarket.org)
・RDAP-ironfxmarket.vip(https://rdap.nic.vip/domain/ironfxmarket.vip)
・RDAP-ironfx.com(https://rdap.verisign.com/com/v1/domain/ironfx.com)
・RDAP-ironltdpr.com(https://rdap.verisign.com/com/v1/domain/ironltdpr.com)
・Google透明性レポート-セーフブラウジングのサイトステータス(https://transparencyreport.google.com/safe-browsing/search?url=user.ironfxmarket.vip)
・金融庁-無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について(HTML版)
IronFXを装う偽サイトに関する不審点

この章ではサイトの不審点として、ロゴ、設定上の会社名と所在地、アプリの入手先、メニューの宣伝文、アカウントと出金の扱い、入金と出金の流れの6点を取り上げます。
ロゴからメニューまでの4つはログインなしで見られる画面と設定が、アカウントと入出金の2つはサイトが読み込むプログラムが根拠です。IronFXの看板を掲げていても、中身の名前や作りは実在のIronFXと結びつきません。
ironfxmarket.vipのロゴは実在の業者が2025年に使っていたもの
ironfxmarket.vipのログイン画面のロゴは、赤い地に白い「IronFX SOLID TRADING」の文字、その右に「15 YEARS」の記章を並べた形です。ロゴの画像はサイトのサーバーに置かれており、画像のアドレスを直接開いても表示されます。
▼15 YEARSの記章まで同じ偽サイトと実在のIronFXのロゴ

出典:ironfxmarket.vip、IronFX
実在のIronFXの公式サイトには同じ組み合わせのロゴの画像が残っており、Internet Archiveの2025年7月と12月の保存版では、ページの上部にこのロゴが使われています。現在の公式サイトのロゴに記章はありません。正規の業者が一時期使ったロゴをそのまま取り込んだとみられます。
サイトの設定では会社名がironで所在地はニューヨークとされている
サイトの設定を返すアドレス(tiger.ironfxmarket.vip)は、ログインしなくても開けます。ページのソースとして表示すると、会社名の欄は「iron」、所在地の欄は「Manhattan, New York, NY, USA」となっています。
▼会社名がironで所在地がニューヨークのサイトの設定

出典:ironfxmarket.vip
前の章で見たとおり、実在のIronFXはNotesco (BVI) Limitedの商号で、登録住所は英領バージン諸島です。設定の会社名も所在地も、実在のIronFXの表記と一致しません。これらの値は画面には出てこないため、利用者が気づく機会はほとんどありません。
アプリの入手先として別の業者名を掲げていたドメインが設定されている
同じ設定には、スマートフォンのアプリの入手先として「https://www.jpdupoinmarkets.com/jpd-android.html」が書かれています。iPhone向けの入手先も同じドメインで、IronFXの名前はどこにも入っていません。
▼アプリの入手先にjpdupoinmarkets.comを指す設定

出典:ironfxmarket.vip
jpdupoinmarkets.comは現在開けませんが、Internet Archiveの2025年7月25日の保存版では、「Quadcode Markets」という別の業者名を掲げた日本語の取引サイトでした。ページの下部には、運営会社としてベリーズの法人名が書かれています。
▼Quadcode Marketsの名前で日本語のサイトを出していた保存版

出典:Internet Archive
同じドメインの2025年12月4日の保存版は、「QuantiandX」「BHUUFTRAD」「SDDCOIBU」「KapitMall」と名前のばらばらなアプリを並べた配布のページです。同じ運営者とは断定できませんが、別の名前で日本語のサイトを出していた場所に、アプリの入手先が向けられています。
▼名前のばらばらなアプリが並ぶ配布のページの保存版

出典:Internet Archive
メニューの融資やAI戦略の説明に損はしませんと書かれている
ログインしなくても開ける説明の画面(/#/layout/dir)で、上部のメニューの「きんゆう」にポインタを乗せると一覧が開きます。「ゆうし」「AI戦略」「購読」の説明は、どれも「高い成長値、安心して購入、損はしません。」です。
▼損はしませんと説明する「きんゆう」のメニュー

出典:ironfxmarket.vip
「時間外取引」の説明も「高成長数値、安心して買えて損しない」で、投資で損をしないと言い切る宣伝が融資の商品にまで並んでいます。値動きのある商品で損をしないと書く金融業者はまずありません。「金融」「融資」がひらがなで表示されている点も、日本の利用者に向けて整えた画面とは言いにくいところです。
アカウントの無効化と借入を理由にした出金の停止がプログラムに用意されている
ここからの2つは、ログインした利用者にしか見えない画面にかかわるため、プログラムそのものを取得して確認した内容です。サーバーから届いた理由を日本語で表示する文言の一覧に、「ユーザーは無効化されています」「ユーザーは凍結されています」「ユーザー取引禁止」が含まれています。
▼User account is disabledが見つかったプログラムの文言

出典:ironfxmarket.vip
プログラムを直接開くと日本語が文字化けするため、画像は同じ文言の英語版です。相談者に出た「アカウントが無効」は、この「ユーザーは無効化されています」の表示とみられます。利用者の側で無効を解除する操作は、プログラムに見当たりませんでした。
出金については、「借入注文があるため、出金を行うことはできません」という文言もあります。サイトには「安心融資」という借入の画面があり、借入が残っている限り出金を断れる作りです。
▼借入があると出金できないとするプログラムの文言

出典:ironfxmarket.vip
借入の申込みでは、自宅住所や緊急連絡先のほか、不動産や車両の証明書の画像まで求める作りでした。出金を止める理由と、個人の情報を集める入口が同じ画面に組み込まれています。
銀行振込の入金は窓口への連絡が前提で出金は運営の承認を待つ作り
入金の手続きをする画面も、利用者として入った後の画面です。そのプログラムを見ると、銀行の欄の下に「注意:資金安全のため、銀行カード送金はカスタマーサービスまでご連絡ください」と書かれており、振込先は画面に出さず窓口から伝える作りです。
▼銀行の送金は窓口に連絡するよう求めるプログラムの文言

出典:ironfxmarket.vip
出金のほうは、ログインせずに開ける説明の画面に「凍結金額:株式買付注文時に一時凍結(約定で解除)、出金申請時に凍結(承認後残高控除)。」とあります。出金を申し込んだ金額は、運営が承認するまで動かせません。
▼出金申請時に凍結すると書かれた説明の画面

出典:ironfxmarket.vip
実在のIronFXは、ポータルの外での入金を求めないと案内しています。窓口から振込先を伝える作りはその反対で、相談者の振込先が毎回別の銀行だったこととも矛盾しません。窓口やチャットで振込先を教えると言われたら、振込を止めて公式の案内と見比べてください。
【参考】
・ironfxmarket.vip(https://user.ironfxmarket.vip/)
・ironfxmarket.vip-説明の画面(https://user.ironfxmarket.vip/#/layout/dir)
・ironfxmarket.vip-サイトの設定(view-source:https://tiger.ironfxmarket.vip/trade/indexSymbol/getSystemConfig)
・ironfxmarket.vip-プログラム(https://user.ironfxmarket.vip/assets/entry/indexBHn9CodD.js)
・IronFX-ロゴの画像(https://www.ironfx.co/wp-content/uploads/2021/03/IFX-EXPO-LOGO-DARK.svg)
・Internet Archive-IronFX(2025年7月25日)(https://web.archive.org/web/20250725205125/https://www.ironfx.com/en/)
・Internet Archive-jpdupoinmarkets.com(2025年7月25日)(https://web.archive.org/web/20250725215006/https://jpdupoinmarkets.com/int/jp/index.html)
・Internet Archive-jpdupoinmarkets.com(2025年12月4日)(https://web.archive.org/web/20251204222815/https://www.jpdupoinmarkets.com/jpd-android.html)
・IronFX-アカウントセキュリティ(https://www.ironfx.co/ja/ironfx/account-security/)
IronFXの名称が悪用されやすい理由

この章では、IronFXの名前が偽サイトに使われやすい事情を4つの面から見ます。日本向けの窓口を持つ実在の業者であること、その業者にも日本の登録がないこと、既製の取引システムで見た目をすぐに整えられること、恋愛感情のある相手の勧めは疑いにくいことです。
日本語のサイトと日本円での出金を用意する実在の業者で名前が知られている
実在のIronFXは日本語の公式サイトを持ち、入出金の案内も日本語で読めます。国内の銀行への送金で出金する手順には、「JPYをご選択ください(日本円でのみ出金を現在受け付けております)。」と書かれています。
▼日本円での出金を案内する実在のIronFXの入出金方法

出典:IronFX
日本の利用者を相手にしてきた業者で、名前を見聞きしたことのある人もいるでしょう。日本円や国内の銀行を使う入出金の案内もあるため、IronFXの名前のサイトから国内の銀行口座への振込を求められても不自然に感じにくくなります。見るべきは、振込先が公式のクライアントポータルに表示されたものかどうかです。
本物のIronFXにも日本の登録がなく登録の有無が見分ける手掛かりにならない
登録業者であれば、金融庁の一括検索で会社の正式な名前を引き、勧められたサイトの運営会社と突き合わせられます。実在のIronFXは無登録の業者として一覧に載っているので、その突き合わせができません。
相手から「海外の大手だから日本の登録は要らない」と言われると、偽物でも本物でも同じ説明が通ってしまいます。本物かどうかの手掛かりは登録の有無ではなく、アドレスと運営会社の表記に求める必要があります。
前の章のとおり、ironfxmarket.vipの設定は会社名を「iron」、所在地をニューヨークとしていました。実在のIronFXの表記は、Notesco (BVI) Limitedと英領バージン諸島の住所です。
既製の取引システムに名前とロゴを載せ替えるだけで取引サイトの外見が整う
サイトのプログラムには、取引システムを業者向けに作って提供する会社の紹介文も書かれていました。その一文は「スタートアップ取引プラットフォームから成熟したブローカーまでの様々なニーズを満たす取引アーキテクチャを深くカスタマイズします。」です。
この紹介文はどの画面にも出てきませんが、サイトが既製のシステムの上に作られたことをうかがわせます。設定にもパソコン用ソフトの入手先として「https://your-domain.com/download/pc-client」という雛形のままの値が残っていました。
アドレスに合わせて送り先が切り替わる作りと合わせると、会社名・ロゴ・アドレスを入れ替えるだけで、別の業者を名乗る取引サイトを用意できるとみられます。画面の出来の良さは、その業者が本物である根拠になりません。仕組みの使い回しを調べた例として、別の名前のサイトと取引システムを共有するFXサイトの調査も参考になります。
恋愛感情を抱いた相手からの勧めは疑うこと自体が難しい
国民生活センターのチェックリストは、相手の誘い文句の例として「結婚の資金を貯めるために投資しよう」「豊かな結婚生活のために投資は重要だよ」を挙げています。二人の将来の話と投資の話が、ひとつながりで持ち出されるということです。
相手を信じている人にとって、勧められたサイトを疑うことは相手を疑うことにつながります。そのため、アドレスや運営会社を確かめないまま言われるとおりに振込を重ねてしまいがちです。
親しい相手から投資やサイトを勧められたときほど、一度立ち止まって家族や専門家に相談してください。第三者の目が入るだけで、アドレスの違いや振込先の不自然さに気づけることがあります。
【参考】
・IronFX-入出金方法(https://www.ironfx.co/ja/deposit-withdrawal-ja/)
・金融庁-無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について(HTML版)
・ironfxmarket.vip-プログラム(https://user.ironfxmarket.vip/assets/entry/indexBHn9CodD.js)
・ironfxmarket.vip-サイトの設定(view-source:https://tiger.ironfxmarket.vip/trade/indexSymbol/getSystemConfig)
・国民生活センター-「愛してるから投資して」っておかしくない!?-マッチングアプリ等で知り合った人に騙されないためのチェックリスト-
IronFXを装う偽サイトの不審点を見抜く方法

ironfxmarketの2つのアドレスの件では、勧めてきた相手、開いたサイト、お金の流れのそれぞれに見分ける手掛かりがありました。相手、サイト、お金の順に、送金の前に確かめたい点を挙げます。
- 相手:恋愛や結婚の話と投資の話が、同じ相手から一緒に出てきたら立ち止まる
- 警察庁も国民生活センターも、二人の将来のためと言って投資を勧める手口を挙げています。勧められたサイトを開く前に、家族など相手と関係のない人に話してみてください。
- サイト:アドレスが実在のIronFXの公式ドメインかを見る
- 実在のIronFXは、連絡にironfx.coのドメインだけを使うと案内しています。「ironfxmarket」のように名前の一部が入っていても、別のアドレスであれば本物の窓口ではありません。
- サイト:ロゴではなく、運営会社の名前と所在地を確かめる
- ロゴは画像なので、本物と同じでも根拠になりません。ironfxmarket.vipの設定は会社名を「iron」、所在地をニューヨークとしており、実在のIronFXのNotesco (BVI) Limitedとは食い違っていました。
- サイト:金融庁の一覧で、日本での登録を調べる
- 実在のIronFXも無登録業者の一覧に載っています。一覧に名前があれば、それが本物の業者であっても、日本で登録を受けずに勧誘している相手だということです。
- お金:振込先を窓口やチャットで個別に伝えられたら振り込まない
- ironfxmarket.vipの入金画面は、銀行の送金を窓口に問い合わせる作りでした。振込のたびに銀行が替わるなら、その時点で手を止めてください。
- お金:「損はしません」という宣伝や借入の勧めは、出金できなくなる入口とみる
- サイトのメニューは「損はしません」とうたい、プログラムには借入があると出金を断る文言とアカウントを無効にする文言が用意されていました。借入を勧められても申し込まず、その画面を保存しておいてください。
アカウントが急に使えなくなっても、画面やアドレスの記録は手元に残せます。ログイン画面、振込の明細、相手とのやり取りを保存し、早めに信頼できる第三者や専門家に相談してください。
【参考】
・IronFX-アカウントセキュリティ(https://www.ironfx.co/ja/ironfx/account-security/)
・金融庁-無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について(HTML版)
IronFXを装う偽サイトに関する口コミや被害事例

今回の2つのアドレスを名指しした書き込みは、国内の主なSNSや質問サイト、掲示板を探しても1件もありませんでした。国内で見つかるIronFXの話題は実在の業者についてのもので、偽サイトに近い事例は海外の報道に1件あるだけです。
ironfxmarketのアドレスで調べてもX(旧Twitter)に被害の書き込みはない
Xでは、「ironfxmarket」を含む投稿は2026年10月6日の時点で確認できませんでした。「IronFX」の名前で出てくるのは、実在のIronFXの日本語のアカウントによる告知や紹介を目的とした投稿がほとんどです。
ironfxmarket.vipは10月1日に取得されたばかりで、ironfxmarket.orgも使われていたのは2か月ほどでした。書き込みが積み重なる前にアドレスが替わっていることになり、投稿がないことは安全の裏付けになりません。
Yahoo!知恵袋や掲示板のIronFXの話題は実在の業者の利用者によるものだった
Yahoo!知恵袋で「IronFX」にかかわる質問を28件読みましたが、偽のサイトや、恋愛感情のある相手からの勧誘に触れたものは1件もありませんでした。多くは実在のIronFXの口座や評判について尋ねるもので、残りはゴルフのアイアンなど投資と関係のない質問でした。
5ちゃんねるのIronFXのスレッドは2015年までの古い書き込みで、実在の業者の利用者のやり取りでした。爆サイでは、IronFX・アイアンFX・ironfxmarketのいずれでも書き込みが見つかりません。
国内の掲示板では、IronFXの名前を使った偽サイトの被害がまだ語られていないということです。名前で調べて出てくる評判は実在の業者についてのもので、勧められたサイトの安全を示すものではない点に注意してください。
海外ではIronFXに似たアドレスの取引サイトによる被害が報じられている
海外の金融情報サイトBrokersViewは2025年8月27日、IronFXに似たアドレスの取引サイトによるインドの被害を報じています。記事は書き出しの段落で、手口を次のように説明しています。
(前略)
The fraudsters allegedly used a website whose URL is highly similar to that of the compliant broker IronFX.
▼IronFXに似たアドレスの被害を報じるBrokersViewの記事

出典:BrokersView
記事によると、被害者はWhatsAppで知り合った女性から「m.ironfxsvip.vip」というサイトを紹介され、出金を求めると税金とVIP会員への格上げの費用を請求されました。親しくなった相手の勧め、IronFXに似たアドレス、出金できないという点は今回と重なります。
一方で、国も時期も違い、入金は暗号資産で、アドレスもironfxmarketとは別のものです。ironfxmarketを動かしている者と結びつける材料はありませんが、IronFXに似せたアドレスが国や時期を変えて使われているとみられます。
【参考】
・BrokersView-Fake Forex Platform Impersonates IronFX, Scams ₹49 Million(https://www.brokersview.com/news/fake-forex-platform-impersonates-ironfx-scams-%E2%82%B949-million-267681)
IronFXを装う偽サイトに関する口コミが少ない理由

ironfxmarket.orgは取得から2か月ほどで止められ、.vipは10月1日に取られたばかりです。語られるアドレスが人によって違うと、それらを同じサイトの話として結びつけるのは難しくなります。書き込みが1か所にたまらないままアドレスだけが次へ移るため、口コミとして残りにくいのです。
「IronFX」と入れて調べると、まず実在の業者の日本語の案内や評判の記事が出てきます。サイトの側もページのソースで「noindex,nofollow」と指定し、検索エンジンに載らないようにしています。仮に書き込みがあっても、本物の業者の情報の陰に隠れ、調べる人がたどり着けないとみられます。
やり取りの中身も、外に出にくいものです。投資を勧めたのは恋愛感情を抱いた相手で、その会話は二人の間で閉じています。親しい相手にだまされたことを人に話すのは、お金の被害だけの場合よりも抵抗が大きいと考えられます。被害に遭った人が自分から書き込む機会が少なく、口コミが表に出にくい状態といえます。
アドレスの入れ替え、本物の情報の多さ、二人の間で閉じた会話という3つの事情から、今回のサイトの口コミは集まりにくくなっています。アカウントが使えなくなったときや、借入や追加の振込を勧められたときは、その場で手を止め、画面と振込の明細をそろえて専門家に相談してください。
【参考】
・ironfxmarket.vip-ページのソース(view-source:https://user.ironfxmarket.vip/)

